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伊福部昭:二十絃箏と管絃楽のための「交響的エグログ」(1982)。私のすごく好きな曲。

1年以上ぶりの更新。しかし、この間もクラシック音楽好きなりの活動は継続していて、今夏はザルツブルク音楽祭にも行ってきた。これはこれでまた別の記事にまとめたい。

2019年5月5日、ラ・フォル・ジュルネTOKYO、最近は伊福部昭、貴志康一、矢代秋雄のような日本人作曲家が安価で聴ける貴重な機会になっている。

さて今年は、愛する「交響的エグログ」が井上道義の指揮で採り上げられたのでもちろんのこと聴きに行った。二代目野坂操壽の演奏を楽しみに…

…しかし当の演奏会はご病気で降板され、8月27日になくなった。

実は複数ある「交響的エグログ」のCDは、おそらくすべて二代目野坂操壽の演奏と思われ、この人の箏で聴くものが当たり前だった。その印象は、和洋折衷、土俗の響き、しかし可憐。さすがこの曲の初演者、というか制作そのものの理由となった人物は、やはり完全にこの不思議な曲を消化していた。

5月5日のラ・フォル・ジュルネに登場した滝田美智子さんは、二代目野坂操壽のお弟子さんとのことで、全力の演奏を聴かせてくれた。同時に明らかになったのはこの曲の難しさ。

CDで聴いていてなんとなく感じてはいたものの、やはりこの曲の根本は壮絶な超絶技巧。もはや二代目野坂操壽本人以外に再現不可能なのではないかとまで感じさせられた。滝田さんの演奏も井上&新日フィルの熱い演奏に応えて伊福部昭の妙味がよく出ていたものの、一見相反するようでどういうわけか調和してしまう、箏の伝える清涼感、可憐さは超絶技巧あってのものであるとわかった。

その二代目野坂操壽も逝ってしまった。結局実演で接することができなかった。「操壽」の名前を継ぐ人が、新しく素敵な「交響的エグログ」を聴かせてほしい。


2018年9月4日 特別演奏会III 《祝祭コンサート》

ノーベル賞組曲

[ノーベル賞の授賞式、晩餐会の音楽集]

ビョルリン:ノーベル・ファンファーレ

モーツァルト:行進曲K.249

ドヴォルザーク:スラヴ舞曲第8番

シベリウス:組曲《カレリア》より行進曲風に

ラーション:田園組曲よりロマンス

アルヴェーン:組曲《放蕩息子》よりシバの女王の祝典行進曲

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付」《第九》

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サカリ・オラモ指揮

ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団 

ソプラノ:カミラ・ティリング 

アルト: カティヤ・ドラゴイェヴィッチ 

テノール:ミカエル・ヴェイニウス 

バリトン:ヘニング・フォン・シュルマン

新国立劇場合唱団 

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9月4日にサントリーホールで第九を聴いていました。

「スウェーデン外交関係樹立150周年記念」と銘打った、ノーベル賞がコンセプトの祝祭コンサートでスウェーデンの皇太子や高円宮絢子さんが出席。第九以前に、皇帝・チャイ5、運命・巨人と詰め込みまくったプログラムをこなしておりびっくり。

私としては星5つ評価とすると星1つか2つ。

なんとなーく雑然としていて高級感(?)に欠けるオケ。重厚感あるゆったり系テンポと大きい音量、終始堅くて破裂していたティンパニのおかげで迫力はあったものの、だんだん飽きてくる。無個性。

ソリストもやっつけ仕事かというような内容で、テノールは跳ねちゃうし、まさかのソプラノは最後力尽きる。

そして結局合唱が一番良かった、という感想。ウェルザー=メストの第九も新国立だったけど、彼らは本当にいい仕事をしてくれる。

一番苦笑したのは、プレストで加速を試みるも、即興だったのか、オケがぐしゃってしまい締まらない終わり方をしてしまったこと。加速盛り上げ芸は難しい。

何かしらコンサートに行ったら日記の代わりに感想を書こうと思っていたはずなのに、見事にすっぽかしていた。いま突然思いついたので、記憶をさかのぼってちょこっとだけ記録をつけてみよう。

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■2018年6月7日(木)18:30開場/19:00開演

ベートーヴェン:

弦楽オーケストラのための大フーガ 変ロ長調 作品133

交響曲第9番 ニ短調 「合唱付き」 作品125

ラウラ・アイキン(ソプラノ)

ジェニファー・ジョンストン(メゾ・ソプラノ)

ノルベルト・ エルンスト(テノール)

ダション・バートン(バス=バリトン)

新国立劇場合唱団

フランツ・ウェルザー=メスト(指揮)/クリーヴランド管弦楽団


プロメテウスプロジェクト。ド平日ゆえそして高額ゆえにずっと行く予定ではなかったものの、会社の人がこれに先立つ公演を大絶賛するもんだからなんとかP席を入手して参戦。

スマートな演奏。スピード感がありつつも超高機能オケが量感たっぷりに鳴らしていてくれていてとても濃厚。でも重くもないしくどくもない清涼感が駆け抜けるという、うまく表現できないことをやってくれるあたりが、凄さを語ってくれているという感じ。合唱も好演。テノール歌手の手元にはタブレット端末。

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■華麗なるコンチェルト・シリーズ 2018シーズン 

2018年6月30日(土)2:00開演

【第6回】「熱狂のチャイコフスキー3大協奏曲!」

ロココの主題による変奏曲 イ長調 op.33 

ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35 

ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 op.23 

上原彩子(ピアノ)

上村文乃(チェロ)

弓 新(ヴァイオリン)

永峰大輔(指揮)

神奈川フィルハーモニー管弦楽団


チャイコ3連発。俊英二人のあとで大先輩が貫禄を見せつけるというような流れ。若手二人には雰囲気や技巧がバッチリ備わっており、ヴァイオリン協奏曲はなんかすごいことになっていた。しかし上原彩子になると、前二人ににはない落ち着きというか巨匠感のようなすこし違った空気が漂い、迫力のチャイコフスキーを聴かせてくれた。ソリストの妙技にに酔ったのは確かだが、伴奏の神奈川フィルの無骨なパワーと永峰大輔の割と容赦ないストレートで畳み掛ける指揮ぶりにも驚かされた。全員全力で満足の演奏会。






M342

山根一仁 (ヴァイオリン)

新日本フィルハーモニー交響楽団 (オーケストラ)

井上道義 (指揮者)

伊福部昭:日本狂詩曲

伊福部昭:ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲

♦♦♦

M345

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 (オーケストラ)

本名徹次 (指揮者)

貴志康一:交響曲「仏陀」(楽譜提供 学校法人甲南学園 貴志康一記念室)

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ラ・フォル・ジュルネは以上の2公演に参戦。私の大好きな曲が固まってしまった。

まず伊福部は、順序変わって協奏風狂詩曲から。力強いバイオリンの時たまひっかくような迫力ある音が興奮させてくれる。そこにゴジラの一節が来てしまえば少し笑いそうになりつつもすごくテンションがあがる。パワフルなヴァイオリンも良い。ストラディバリウスを頂点とする美音もよいけど、こんな土臭いヴァイオリンも素敵。

わざわざ後半に持ってきた日本狂詩曲には大いに期待していた。これをおはことする井上道義の手になれば、それはきっと重戦車のような演奏になるだろうと。きっと、格別の気合が入ってこその順序変更であろうと…。

しかし、順序変更の理由は違った。

マエストロいわく「2曲『祭り』には仕掛けが」。ようは、ラデツキー行進曲状態、あるいはドゥダメル状態。踊りまくるマエストロ、立ち上がるオケ、マエストロに誘われて立ち上がる聴衆、本当に踊っている人もいた。沸き起こる手拍子。マエストロついに膝をついて床を和太鼓のごとく手で連打し、最後には譜面台を持ち上げてエンヤコラ。力強い連打で苛烈に締まると同時に熱狂するホール。なるほど『祭り』にふさわしく、POWER OF MUSICここにありという感じであった。この仕掛のための順序変更。

が、言わなくても分かる通り、私は普通に座って聴いていたかった。演奏は四方八方から響き渡る手拍子にかき消されてしまったし、演奏もどうもその場しのぎ的なBGMに下ってしまった気がして、はっきり言ってひじょうに不満足。たしかに大ウケだったから、まさに「お祭り」であるLFJにはあってるかもしれない。が、「井上道義×伊福部昭」という文字の表現力、そこに読みこめる期待の大きさを侮っちゃいけない。

続いての貴志康一の『仏陀』はまさか東京で実演で聴ける日がくるとは思わなんだ、という感じ。伊福部昭に比べるとビックリする空席率ではあったが、そのぶんちょっと優越感感じながら聴く絶美の名曲。みんなもったいない。

想像以上の規模感と彫りの深さ。CDでは感じ得なかった大交響曲の貫禄がそこにはあって思わず唖然。なんというか聴くシルクロード、東洋西洋のハイブリッド。

1楽章の昭和歌謡のようなメロディもまさかあんなにスケールの大きいものだったとは。2楽章がこんなにも美しいとは。3楽章はやっぱり魔法使いの弟子だったし、4楽章はちょっと神経質そうな独特の緊張感をはらんだ細い線。で、どのへんが仏陀だったのかは正直わからなかったけど、それよりも音の美しさに関心がいってしまう。伊福部昭のギャップもすごいけど、比較不能な美しさが備わっていた。なんだろう、日本画で言えば菱田春草的なものを感じる。

この曲は、ぜひ、硬さや鋭さを持ったオケで聴いてみたく思う。2楽章や4楽章の美の極致みたいな響きは、もっともっと磨けるのではないか。ていうかそもそも別のホールでやろう。



第207回日曜マチネーシリーズ

2018 4.29〈日・祝〉 14:00  東京芸術劇場

指揮=アジス・ショハキモフ

ピアノ=ガブリエラ・モンテーロ

ムソルグスキー(リムスキー=コルサコフ編):交響詩「はげ山の一夜」

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18

チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調 作品64

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GW初っ端はロシア魂炸裂する濃厚コンサートへ。

とっても若いアジス・ショハキモフは、≒アンドレア・バッティストーニといった風貌に演奏。総じてダイナミックなアゴーギクとディナーミクが満載で非常に楽しかったです。

それもただ単に若気の至り的な表現ではなく、盛り上げ方がうまく、考えられた表現だという気がしました。メロウで甘々なピアノコンチェルトとシンフォニーのドラマティックな物語が映画でもみているかのように感じられました。

ガブリエラ・モンテーロのピアノは余裕綽々といった様子で、オケにも負けることなく堂々たる迫力。特筆すべきは彼女のアンコール。なんと、客席にリクエストして、なにか一節歌えという!それをもとに即興すると…。

ほぼ満員2000人の東京藝術劇場。すると1人のおじいさんが声を上げた…しかし、いまいちモンテーロに伝わっていない…すると、後方から声楽かなにかをやっている人と思しき高らかなソプラノボイスが滝廉太郎の「花」を歌った!

そうして始まった「花」の即興曲はところどころバッハ風でなんとも爽快、ラフマニノフで魅せまくった超絶技巧が支えて輝く音の粒。こんなアンコールもたのしいもんです。

チャイコフスキーは、曲想とショハキモフのセンスがピッタリあっていたようでもうなんか音が弾け飛んでいました。読響も非常にパワフルで、タテにもヨコにも動きまくるショハキモのイメージをしっかり描いていました。

4楽章、見事にドラマを展開させてフィナーレは圧巻の迫力、重なり合って格調高く響くラッパの金色の音色!まさにクライマックスという感じ。そしていつにもまして力強く刻むティンパニ。見どころ満載のティンパニーが…なんと左手のバチを落とした!

しかし、さすがはプロと言うべきか、要所は片手で叩いてキメる。おかげで曲の流れは止まらず、なにか抜け落ちた感もなく、貫禄たっぷりに大団円。カーテンコールで立った時、左でバチをくるんと一回り。



シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47

ブルックナー:交響曲 第4番 変ホ長調 「ロマンティック」 WAB104

(1888年版/2004年コーストヴェット校訂版)

指揮:マーク・ウィグルスワース

ヴァイオリン:ジェニファー・パイク

東京交響楽団

@サントリーホール

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春めいた土曜日は、散りかけの桜をみつつ、スヌーピーミュージアムに行き、それからブルックナー。スヌーピーは『恋ってすばらしい。』という展覧会でとても純粋な恋の姿を見せつけられてほっこり。

ブルックナーは2004年コーストヴェット校訂版という見慣れない文字が踊っていますが、いわゆる評判宜しくない改訂版の校訂版という代物。

カットあり、継ぎ接ぎ感あり、シンバルありという5番シャルク版的な奇妙な世界が待っていますが、そこはロジェストヴェンスキーやクナッパーツブッシュのような巨匠たちが補って巨大な演奏を聴かせてくれるように、マーク・ウィグルスワースに期待をしたのですが…

快速、揺れ、煽り…いやはや、激的なブルックナーでした。版にもまして本当に別の曲。思っていたのとはだいぶ違う仕上がりで少し残念でしたが、ブルックナーの持つ迫力を一点に集中させて爆発させたとおもえば良いでしょうか。意外と聴き応えがったのは事実です。

こちらのスクロヴァチェフスキの演奏には改訂版の要素が盛り込まれています。4楽章のシンバルに使い方などこれを期待していたのですがだいぶ違っていました。

春めく六本木、期間限定でサントリーホールの屋根にあるお庭が開放されていました。

ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調op.88(1931年版)
リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調 S178
リスト:告別(ロシア民謡)S251
メトネル:「忘れられた調べ」より
@東京文化会館小ホール
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ちょうど半年前もメジューエワさまのピアノを聴いたが、その時はベートーヴェンの後期ソナタでした。今回はリストとラフマニノフを中核とした、またひと味違う内容。鬼気迫る迫力と吹き上がる焔の感が強いラフマニノフと、キラキラつぶが輝くようなリスト。ともに超絶技巧を駆使した人知の及ばぬような世界のはずが、メジューエワさまによってそれぞれ独自の色彩豊かに気持ちを込めて生き物のように生まれ変わっていたようです。

その後は散歩してちょっとお高いディナー。幸福感溢れる土曜日でした。

日本画家、丁子紅子(Choji Beniko)さんの画集を購入しました。

「感情の入れこむ隙間を描き、いつかそこにあった心が少しでも確かなものになるように。

映し身となるヒトガタを描いています。」(HP/画集より)


純白でアンニュイな表情に見る側のほうでいろいろと読み込んでいきます。すると、一見同じ顔をしている女性の顔が皆違ったように見えてきます。

完璧な美女のハコ(ヒトガタ)への心の搭載が私たち見る側に委ねられ、見ながら考えるほどに真っ白な肌の血色が良くなっていくように思える不思議な女性たち。赤白黒といった鮮烈なカラーがだんだんマイルドに、もっと中間色豊かな温かみのある人間へとそのうち変わっていきます。

たぶん、時間が経って見直したり、あるいは日々私の方で色々考えや思いが変わっていくたびにこの絵をみると、それごとに違った表情が浮かんでくるのだと思います。だから私にとっては、私が死ぬまでこの絵は日々新鮮な姿を見せててくれるし、この絵からしてみれば、人間がいるかぎり永遠に新鮮な輝きを失わないのだと思います。

ある意味未完成のこの絵ですが、それゆえに色褪せない永遠に続く魅力を感じます。

丁子紅子さんは年が近いので、すごく応援しています。素晴らしい方を見つけました。


こういう、「隙間」を用意してくれている作品が好きです。大好きなアントン・ブルックナーもわりとそういう作曲家だと思っています。

MIKIMOTO 第58回 日本赤十字社 献血チャリティ・コンサート New Year Concert 2018

指揮/大野和士

ソプラノ/大村博美

メゾソプラノ/脇園 彩

テノール/笛田博昭

J.シュトラウスⅡ:喜歌劇『こうもり』序曲

ヴェルディ:歌劇『椿姫』より「乾杯の歌」「ああ、そはかの人か ~ 花から花へ」

ビゼー:歌劇『カルメン』より「前奏曲」「恋は野の鳥(ハバネラ)」「ジプシーの歌」

プッチーニ:歌劇『ラ・ボエーム』より「冷たき手を~ 私の名前はミミ ~ 愛らしい乙女よ」

ストラヴィンスキー:バレエ組曲《火の鳥》(1919年版)

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このコンサート目当てで外出したというよりは、買い物やディナーとセットで良い休日のために組み込んだもの、そういったかなり軽い気持ちで足を運びました。

改修後のサントリーホールを訪れるのは実は今回はじめてでしたが、スロープが追加されたり座席シートが貼り変わったりと確かにキレイに新しくなっていました。

『こうもり』にはじまりオペラの名曲をつまみ食いする晴れやかなコンサート、くらいに思っていたらびっくり仰天。大野和士&東京都交響楽団のセンス抜群の美麗な名演に聞き惚れました。

やはり《火の鳥》の歌わせ方やときに迫りくる爆発力、これらは筆舌に尽くしがたいものがあり、どうして今までこのペアーのコンサートに行かなかったのだろうと後悔。

遅すぎの感ありますが、これから東京都交響楽団の動向をチェックしていこうと思います。


ふたたび夕飯はドイツ料理。

東京ユヴェントス・フィルハーモニー第16回定期演奏会

2018年1月7日(日) @ミューザ川崎シンフォニーホール

バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番

ブルックナー:交響曲第9番二短調

ヴァイオリン独奏:毛利 文香

演奏:東京ユヴェントス・フィルハーモニー

指揮:坂入 健司郎

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2018年最初のコンサートです。

初めて生で聴くブルックナーの9番でしたが、とても楽しめました。未完成だけれど、すでに3楽章で完結していると言われる所以、ブルックナーの言葉に従ってテ・デウムをその第4楽章とすることの不可解さ、このあたりがよくわかった気がします。

大編成のオーケストラから奏でられる音の大瀑布(と言って差し支えなさそうな音量と迫力を持ったオケでした。)に飲み込まれてしまえば、まさに宇宙的とか神秘的とかいうべき広大な世界があったように思います。

しかし、悲しいことは、前プロのバルトークがどうしてもよくわからなかったこと。このマリアージュの意味や効果がわかれば、もっと具体的な言葉でブル9の宇宙だ神秘だを表現できるのかもしれません。

新年早々、音楽の奥深さを目の当たりにした気がします。

コンサート後は有楽町のドイツ料理屋にて夕飯。

今年もよろしくお願いします。

2017年の11月はシリコンバレーで過ごしました。仕事です。

サンフランシスコ市内まで車で35分程度の距離のところに滞在していたので出向きやすく、幸いにもサンフランシスコ交響楽団のコンサートに3回も参加することができました。

しかもちょうどそのころ、MTTが20年をもってサンフランシスコ響のシェフを退任するという報道に接したこともあり、いずれも忘れがたいいい思い出になりました。

いずれもホールは彼らの本拠地Davies Symphony Hall。キャパ2743という日本ではあまり見かけないサイズの巨大ホールですが、体感的にはサントリーホールなどとそこまで変わりません。響きもとくに文句はなく、聴衆もいつもハートフルな拍手を送っていて、「街のオーケストラ」という雰囲気でした。チケット代も来日公演より遥かに安く済み、いいことづくめでした。


MTT CONDUCTS BERNSTEIN AND R. STRAUSS

Sun, Nov 5, 2017 at 2:00pm

Bernstein: The Age of Anxiety, Symphony No. 2

R. Strauss: Ein Heldenleben

Michael Tilson Thomas (Conductor)

Jean-Yves Thibaudet (Piano)

San Francisco Symphony

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交響曲『不安の時代』は、シンフォニーというかむしろピアノコンチェルト、またジャズテイストの強いアメリカンな曲で、視覚的には超絶技巧が楽しませてくれました。

『英雄の生涯』は壮大なスケールで送るまさに「英雄の生涯」の物語で、コンサート前のMTTのユニークなプレトークで予習地味ということもあって、初めて聴く曲ながらとても楽しめました。

SF響は日本では聴いたこともないような音を出すオケでした。どの楽器も溶け合って非常に滑らかなサウンド。強奏すれば音楽全体が膨らんでいくような息の深さ、そしてこれがアメオケの特徴なのか、どこまでも巨大化していく音量・・・。そしてMTTの個性と思しき、繊細でさらに優しく緻密になっていく弱音。常に解像度は高く、しっかり機動力も伴った技巧集団のあまりに美麗な音に、シュトラウスでは完全に打ちのめされてしまいました。


AMERICAN MASTERS: GERSHWIN, IVES, AND MORE

Sun, Nov 12, 2017 at 2:00pm

Ives: Psalm 90

Dvořák: The American Flag

Ives: Symphony No. 3, The Camp Meeting

Gershwin: An American in Paris

Michael Tilson Thomas (Conductor)

Amitai Pati (Tenor)

Philip Skinner (Bass-baritone)

San Francisco Symphony Chorus (Ragnar Bohlin Director)

San Francisco Symphony

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こんなプログラム日本では望めない!まさにローカルなプログラムです。

特にドヴォルザークのカンタータ『アメリカの旗』はSF響ですら初演らしく、なるほど演奏されないだろう変な曲。カンタータらしく神々しいコーラスかと思いきやいきなり行進曲が舞い込んできたり、やたらメロウな旋律が流れてきたりと、言い方は悪いですがかなりキッチュな仕上がり。

というのもこの曲、アメリカ大陸発見400周年記念のためにニューヨーク・ナショナル音楽院の学長から頼まれて作った曲。愛国歌みたいな色彩がとっても強いです。

この日のプログラムはほかにもアイヴズの『詩篇90番』などオルガン伴奏&不協和音ありの合唱曲、交響曲第3番はとてものどかな田舎風景そのままの親しみやすい曲。いずれも違ったアメリカの風景を教えてくれました。シンフォニーのほうは録音するそうで演奏前に「静かにね」とMTTのコメント。楽章間で反響板を動かしたりとなかなか容赦なかったです。

締めは、説明不要のアメリカンな一曲『パリのアメリカ人』。初演時の再現で本物のタクシーのクラクションを使っていました(ホーン型のやつです)。

コンサート前半はアメリカの聴衆も未知の体験のようで、しみじみ聴いてる様子でしたが(もっともカンタータはウケていた)、ガーシュウィンでは割れんばかりの拍手と歓声。オケもノリノリでアメオケの面目躍如、最高の組み合わせの最高にハイな音楽を堪能しました。


SYMPHONY RELIEF: A BENEFIT CONCERT FOR THE NORTH BAY

Sun, Nov 19, 2017 at 7:30pm

Copland: Fanfare for the Common Man

Copland: Music from the film Our Town

Tchaikovsky: Finale: Allegro con fuoco from Symphony No. 4

Traditional: Selection of Spirituals

Beethoven: Finale: Ode, "To Joy" from Symphony No. 9

Michael Tilson Thomas (Conductor)

Nikki Einfeld (Soprano)

Renée Rapier (Mezzo-soprano)

Nicholas Phan (Tenor)

Solomon Howard (Bass)

San Francisco Symphony Chorus

Members of the San Francisco Opera Chorus, Ian Robertson, Director

San Francisco Symphony

去年猛威を奮ったカリフォルニア北部の大火事のためのチャリティーコンサートです。現地の視聴やサンフランシスコ市議なんかも出席したイベント的コンサートでした。

力強く荘厳なコープランドの『市民のためのファンファーレ』で始まり、同じくコープランドの親しみやすい曲でのどかに仕上げたのち、チャイコフスキーの第4番のフィナーレで大いに前半を盛り上げました。

このコンサートでよくわかったのはMTTの流儀。絶対に煽ったりテンポを揺らさないその徹底ぶりに驚かされました。ゆっくりすぎるくらいに始まったチャイ4も、しかし終わってみればしっかり燃え上がっていて、やはりMTTとSF響の並々ならぬ力量を感じました。こんなに解像度が高いチャイコフスキーなんて聴いたことありませんでした。

後半最初はバリトン歌手の送る霊歌で、聴衆のアメリカの人びとは一部一緒に歌っていました。

そしてベートーヴェン第九の第4楽章。たっぷりとしたSF響の歓喜の歌は至福でした。しかしちょっと残念?おもしろかったのは、練習不足だったんだろうなという声とオケの合わなさ。まさに水と油という感じで何箇所か思いっきりずれていましたが、そこは、最終的にはオケがしっかりつじつまを合わせていく対応力を見せていました。なかなかスリリング。