サンフランシスコ交響楽団の思い出
2017年の11月はシリコンバレーで過ごしました。仕事です。
サンフランシスコ市内まで車で35分程度の距離のところに滞在していたので出向きやすく、幸いにもサンフランシスコ交響楽団のコンサートに3回も参加することができました。
しかもちょうどそのころ、MTTが20年をもってサンフランシスコ響のシェフを退任するという報道に接したこともあり、いずれも忘れがたいいい思い出になりました。
いずれもホールは彼らの本拠地Davies Symphony Hall。キャパ2743という日本ではあまり見かけないサイズの巨大ホールですが、体感的にはサントリーホールなどとそこまで変わりません。響きもとくに文句はなく、聴衆もいつもハートフルな拍手を送っていて、「街のオーケストラ」という雰囲気でした。チケット代も来日公演より遥かに安く済み、いいことづくめでした。
MTT CONDUCTS BERNSTEIN AND R. STRAUSS
Sun, Nov 5, 2017 at 2:00pm
Bernstein: The Age of Anxiety, Symphony No. 2
R. Strauss: Ein Heldenleben
Michael Tilson Thomas (Conductor)
Jean-Yves Thibaudet (Piano)
San Francisco Symphony
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交響曲『不安の時代』は、シンフォニーというかむしろピアノコンチェルト、またジャズテイストの強いアメリカンな曲で、視覚的には超絶技巧が楽しませてくれました。
『英雄の生涯』は壮大なスケールで送るまさに「英雄の生涯」の物語で、コンサート前のMTTのユニークなプレトークで予習地味ということもあって、初めて聴く曲ながらとても楽しめました。
SF響は日本では聴いたこともないような音を出すオケでした。どの楽器も溶け合って非常に滑らかなサウンド。強奏すれば音楽全体が膨らんでいくような息の深さ、そしてこれがアメオケの特徴なのか、どこまでも巨大化していく音量・・・。そしてMTTの個性と思しき、繊細でさらに優しく緻密になっていく弱音。常に解像度は高く、しっかり機動力も伴った技巧集団のあまりに美麗な音に、シュトラウスでは完全に打ちのめされてしまいました。
AMERICAN MASTERS: GERSHWIN, IVES, AND MORE
Sun, Nov 12, 2017 at 2:00pm
Ives: Psalm 90
Dvořák: The American Flag
Ives: Symphony No. 3, The Camp Meeting
Gershwin: An American in Paris
Michael Tilson Thomas (Conductor)
Amitai Pati (Tenor)
Philip Skinner (Bass-baritone)
San Francisco Symphony Chorus (Ragnar Bohlin Director)
San Francisco Symphony
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こんなプログラム日本では望めない!まさにローカルなプログラムです。
特にドヴォルザークのカンタータ『アメリカの旗』はSF響ですら初演らしく、なるほど演奏されないだろう変な曲。カンタータらしく神々しいコーラスかと思いきやいきなり行進曲が舞い込んできたり、やたらメロウな旋律が流れてきたりと、言い方は悪いですがかなりキッチュな仕上がり。
というのもこの曲、アメリカ大陸発見400周年記念のためにニューヨーク・ナショナル音楽院の学長から頼まれて作った曲。愛国歌みたいな色彩がとっても強いです。
この日のプログラムはほかにもアイヴズの『詩篇90番』などオルガン伴奏&不協和音ありの合唱曲、交響曲第3番はとてものどかな田舎風景そのままの親しみやすい曲。いずれも違ったアメリカの風景を教えてくれました。シンフォニーのほうは録音するそうで演奏前に「静かにね」とMTTのコメント。楽章間で反響板を動かしたりとなかなか容赦なかったです。
締めは、説明不要のアメリカンな一曲『パリのアメリカ人』。初演時の再現で本物のタクシーのクラクションを使っていました(ホーン型のやつです)。
コンサート前半はアメリカの聴衆も未知の体験のようで、しみじみ聴いてる様子でしたが(もっともカンタータはウケていた)、ガーシュウィンでは割れんばかりの拍手と歓声。オケもノリノリでアメオケの面目躍如、最高の組み合わせの最高にハイな音楽を堪能しました。
SYMPHONY RELIEF: A BENEFIT CONCERT FOR THE NORTH BAY
Sun, Nov 19, 2017 at 7:30pm
Copland: Fanfare for the Common Man
Copland: Music from the film Our Town
Tchaikovsky: Finale: Allegro con fuoco from Symphony No. 4
Traditional: Selection of Spirituals
Beethoven: Finale: Ode, "To Joy" from Symphony No. 9
Michael Tilson Thomas (Conductor)
Nikki Einfeld (Soprano)
Renée Rapier (Mezzo-soprano)
Nicholas Phan (Tenor)
Solomon Howard (Bass)
San Francisco Symphony Chorus
Members of the San Francisco Opera Chorus, Ian Robertson, Director
San Francisco Symphony
去年猛威を奮ったカリフォルニア北部の大火事のためのチャリティーコンサートです。現地の視聴やサンフランシスコ市議なんかも出席したイベント的コンサートでした。
力強く荘厳なコープランドの『市民のためのファンファーレ』で始まり、同じくコープランドの親しみやすい曲でのどかに仕上げたのち、チャイコフスキーの第4番のフィナーレで大いに前半を盛り上げました。
このコンサートでよくわかったのはMTTの流儀。絶対に煽ったりテンポを揺らさないその徹底ぶりに驚かされました。ゆっくりすぎるくらいに始まったチャイ4も、しかし終わってみればしっかり燃え上がっていて、やはりMTTとSF響の並々ならぬ力量を感じました。こんなに解像度が高いチャイコフスキーなんて聴いたことありませんでした。
後半最初はバリトン歌手の送る霊歌で、聴衆のアメリカの人びとは一部一緒に歌っていました。
そしてベートーヴェン第九の第4楽章。たっぷりとしたSF響の歓喜の歌は至福でした。しかしちょっと残念?おもしろかったのは、練習不足だったんだろうなという声とオケの合わなさ。まさに水と油という感じで何箇所か思いっきりずれていましたが、そこは、最終的にはオケがしっかりつじつまを合わせていく対応力を見せていました。なかなかスリリング。
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